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吉成智子「奏楽を伴う来迎の思想」

奈良国立博物館で行われている「1000年忌特別展 源信 地獄極楽への扉」を見てきました。「往生要集」の普及に伴って描かれたさまざまな絵画が展示されており、その中に「阿弥陀聖衆来迎図」と呼ばれるものもいくつもありました。
実は家人が昔、これらの来迎図に描かれた奏楽場面について、それが描かれるようになった経緯を調べて論文を書いており、それもあって今回奈良を訪れました。
来迎思想、つまり人が死ぬときに極楽から阿弥陀如来をはじめとする菩薩たちがお迎えに来てくれる、という考え方は、「観無量寿経」という経典に由来するものですが、「お迎えの菩薩たちが楽器を持ち、音楽を奏でている」という考え方は、源信に始まる日本独自のものです。ただ、源信はその音楽の内容(楽器の種類や人数)についてはとくに規定していません。しかしその思想の普及とともに来迎の様子を描いたたくさんの「来迎図」が描かれ、その中で、しだいに楽器の種類や菩薩の数が変化し、固定化していくのです。吉成智子の論文は、その変化のプロセスと、その理由を、たくさんの来迎図を調査して描き出しました。


もう40年近く前に音大の音楽研究所年報に発表されたものですが、今回の展示の解説などを見ながら、あの論文をもう少しアクセスしやすい状態にしても良いだろうと思い、ネットで公開することにしました。CiNiiなどで論文のタイトルを拾うことはできるのですが、論文自体にアクセスするのは難しいからです。
ご関心のあるみなさまのお目にとまれば幸いです。

サンチャゴの写本が盗難

世界遺産にも指定されているスペインの聖地サンチャゴ・デ・コンポステラに伝えられた12世紀の写本Codex Calixtinusが盗まれたそうだ。カリクスティヌス写本といえば巡礼の経路を詳しく説明した世界最初の旅行ガイドであり、音楽の世界では初期の多声オルガヌム、いわゆるメリスマ・オルガヌムがいくつも記されていることで良く知られている。この写本の曲だけを集めたCDも出ているほどだ。

盗まれたのは今月5日のことらしい。厳重に保存されていたはずの貴重な写本が、気が付いたらなかった、というのだから、世紀の大事件だ。ヨーロッパ各国では7日か8日にニュースとして報じられている。だが不思議なことに、日本ではまったく、新聞の隅っこでさえ話題に上らない。そんなもんでしょうかね。サンチャゴ巡礼にまつわる本や写真集なんかも結構売れてそうなんですけどね。

ちなみにこの写本の音楽はナクソスでも聴けます。

http://ml.naxos.jp/album/sdg701

↑これはガーディナーとモンテヴェルディ合唱団の演奏。もっと新しい、ルネサンス期の音楽も混じってますが。

フランス国立ジャズオーケストラ

フランス国立ジャズオーケストラの25周年記念演奏会というのをarte LIVE WEBで観ることができる。
http://liveweb.arte.tv/de/video/L_Orchestre_National_de_Jazz_feiert_sein_25jahriges_Jubilaum/

恥ずかしながら、フランスに国立のジャズオーケストラがあるというのをこれまで知らなかった。結成以来四半世紀も経ているうえに、1991年には来日もしているらしい。なんとまあ。

演奏はまあまあ。悪くはないが、飛びぬけて良い演奏とか、特別選り抜きのメンバーを集めたという風にも見えない。国立の看板をしょっているからと言って、とりわけゲイジュツ的な路線を目指しているというようでもない。

それにしても、こういうバンドがあるというということは、フランスではジャズというジャンルが国の予算をつぎ込んで保護されるべき文化財とみなされている、ということなのだろう。アメリカならともかく、フランスというところが興味深い。

ジャズってとっくに「保護すべき古典芸能」になっていたんですね。
日本はどうなんだろ。

ストリーミング

前にストリーミングに関わるソフトを紹介した際、具体的にこんなサイトに適用できた、という例を紹介したら、ほとんど即時に複数のサイトから「規約違反」との反応があった。1つのサイトはメールによる警告で、当該の文言を削除するだけで済んだが、もう1つのサイトは即刻アカウント停止。一方的な通告のみで、メールを出しても反応はなく、残っていた数ヶ月分の課金がパーになった。
1日に数人しか訪れないこんなブログまで監視するなんて、ご苦労さんなことだ。しかも片方はドイツのサイト。日本語の分かるスタッフがいるのか、日本の組織と提携しているのかしらないが、これもまたご苦労さん。

規約などというものは向こうが一方的に提示し、こちらは一応納得したことになっている訳だから、規約違反と言われれればこちらはどうしようもない。

しかし、テレビの録画やラジオやCDの録音が個人の権利として認められているのに、ネット・ストリーミングについては認められないというのは、やはり変だと思う。実際にネット上の動画ストリーミングを体験すればわかることだが、ブロードバンドといえども通信速度が追いつかずに動画がブツ切れになることはしょっちゅうだ。映画や演劇ならまだ我慢しやすいが、音楽の場合は致命的と言ってよい。いったんデータをローカルに保存し、快適なコンディションで再生するのは、ユーザーの権利として保証されるべきだと思う。お金払ってるんだしさ。契約者には配信側が十分な通信環境を保証してくれる、とでもいうのなら別だろうけど。

良い内容だからこそ、それなりの対価を払っているのだし、払った限りはなるべく良い条件で、なるべく便利に使いたい。ユーザーとしては当然の思いではないか。

そもそも19世紀以前の文化を前提とした「著作権」の考え方を、むりやりディジタル文化に適応しようとしても、所詮無理があるのだ。根本的に発想を変えないと、せっかくの新しいメディアの利点をどんどん矯めてしまうことになる。

音楽にしてもネットにしても、本来はみんなのもの、すべての人に開かれた共有財なんだけどなあ。それを私物化したり、囲い込んで金儲けの道具にしたり、という発想がいつか時代の波の中で廃れていくことを願っている。もう無理かもしれないけど。

ところで、今回はいっさい固有名詞を出してない。果てさてこれでも文句言ってくるところはあったりするのでしょうか?

歌舞伎十八番はみんなのもの

歌舞伎十八番というのは、7代目市川團十郎が選定した、市川宗家のお家芸だそうだ。もちろんある家のお家芸だからといって他の家の役者が演じてはいけないというものではなく、「勧進帳」などはさまざまな役者で見ることができる。だがその一方で「暫」のように、ずいぶん長い間市川宗家以外の役者が演じていないものもあるという。やはり遠慮のようなものがあるのだろうか。

だが、「歌舞伎十八番」の選定は1830年代。当然著作権などというものの及ぶはずもなく、完全なパブリックドメインである。何の遠慮があるものか。

この際、お家芸などというレッテルにとらわれず、誰でも遠慮無く上演できるようにすべきだろう。上演されなくなった演目の復興なども、市川家だけに委ねるのではなく、むしろ国立劇場のような第三者的立場の組織が企画して、いろんな才能に委ねればよい。

「暫」や「助六」は見たいけど、あの役者だけは避けたい、とか、ぜひこっちの役者で見たい、というようなことは当然あるだろう。歌舞伎は国家の共有財。誰もが自由に演じ、自由な選択のもとで鑑賞できて当然だ。

かつて上方で様々な楽家によって個々に伝承されていた雅楽の曲目が、天皇が東京に移るという文化の変動をきっかけに統一され、家の枠を超えた伝承システムが作られた。同じようなことが歌舞伎についても行われてよいのではないか。歌舞伎はみんなのものなのだから。

楽同会のご案内

国立音楽大学で音楽学を学んだ人(楽理学科、音楽学学科、音楽文化デザイン学科音楽学専修、音楽学研究コース、大学院音楽学専攻)の同窓会である楽同会の集まりが、12月23日にアルカディア市ヶ谷で開かれます。

2008年3月に御退職された小林緑先生にお話し頂くほか、現役学生による津軽三味線、大学院生によるテルミンの演奏も予定しております。

会員にはご案内のはがきをお送りしましたが、名簿データが古いため宛先不明で戻ってきたものも多く、急遽このブログでも告知させていただくことにしました。ご友人とお声をかけあっていただければ有り難いです。

年末の慌ただしい時節ではありますが、同窓生の皆様の参加をお待ちしております。         

詳細は次のとおりです。

日 時:    2010年12月23日(木・祝)15:00より
場 所:    アルカディア市ヶ谷(JR市ヶ谷駅 徒歩2分)
予 定:    14:30~ 受付開始 15:00~ 開会
会 費:    6000円(※お子様同伴可。お子様は無料です。)

準備の都合がございますので、ご出席の方はなるべく事前に国立音大音楽学研究室にご連絡頂くか、当ブログ管理人(吉成:gcd00342@nifty.com)ご連絡ください。

ごあいさつ

本家サイトmusiquestのBBS停止に伴い、こちらの「雑録」をこれまでよりも柔軟に運用していくことにしました。
今後ともよろしくお願いいたします。